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トダナノオク
別にそれほど良いものでもないし、どうしても欲しいものじゃなく……戸棚の奥に残ってたお菓子のような、そんなスタンスの漫画やイラストを。

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東方密室 第一章

 前回は序章。プロローグです。
 序章だけだったら普通な二次小説に見えますが、章に入らなければ本編ではございません。
 東方密室第一章です。

「……高い」
「嫌ならお引き取り頂いて結構さ」
「それが客に対する態度かね? 香霖堂」
「客を選んでいるだけさ」
 人里を離れた小さな雑貨店、香霖堂。そこで押問答を繰り返す人影が二つ……一人は言うまでもなく、店の主人である森近霖之助。そてもう一人、先ほどから苛立たしげに顎を撫でている少女は……
「大体にして、君はまだ未成年じゃないか、火星運河。それに、女性の喫煙てのも感心しないね」
「かのシャーロックホームズはその明晰たる頭脳を刺激する謎に窮してはクスリをやっていたものさ。それをニコチンで我慢しようっていう僕の慎ましさが分からんかなぁ? 香霖堂」
「分からんね」
「む」
「それにカートン買いするからまけろ……なんてけち臭い客の気持ちなんて推し量るもんじゃないね」
 嘆息して、霖之助はカウンターに乗せた煙草のカートンを眺めた。チェリーという銘柄で、外の世界でさえ人気がないらしく、仕入れるのには骨が折れた品物であることに間違いはない。ただでさえ幻想郷において煙草などは捌きにくい品物であるのだから、チェリーなん銘柄は殊更である。あるのだが……
「香霖堂よ、知っているかな?」
「何を?」
「煙草というものにも賞味期限があるのだよ」
 ほら、と言って運河はポケットからクシャクシャになったチェリーのソフトパックを霖之助に突き付ける。泣けなしの一箱である。こ一箱が尽きれば、運河は禁断症状で暴れ出すやも知れないな、と霖之助は思った。そう、運河はチェーンスモーカーなのだ。以前、チェリーの仕入れが滞った際に軒先で運河が愛用のデリンジャー片手に暴れ回ったことを霖之助は忘れてはいなかった。だからこそ彼は他に買い手もいないチェリーを仕入れている訳だが……
「このチェリーの賞味期限は間もなく切れそうだ。そして、同じ時に仕入れたそのカートンも賞味期限は同じ……この意味が分かるかね?」
 分からなくはない……が、霖之助は頷く代わりに溜め息をついた。やれやれと被り振り額を押さえると、
「何とまぁ、こすいやり口だろうね……運河」
「何が?」
「君は仕入れた煙草の数量を逆算して、賞味期限が切れる頃合を見計らって買い占めに来たんだろう?」
「ふぅん。なかなか鋭いね、香霖堂。ま、僕の鞄持ちくらいにはしてやるかね」
「結構だよ……全く、そんな下らないことに頭を捻ってるようじゃ幻想郷一の名探偵なんて看板は下ろした方が良いんじゃないか?」
「何をぅ! このボンクラ商人め! お前こそ、さっさと仕事しろ! チェリーを捨て値で僕に売らないかぁ!」
「や、やめろ……痛いだろ?」
 運河が日頃より両袖に隠し持つデリンジャーが活躍する数少ない場面である。とは言え、霖之助のこめかみに銃口をしたたか押しつける彼女の姿からは、とてもではないが名探偵の三文字は思い浮かばない。しかし霖之助もそれを口に出して言うほど命知らずではなく、よもや火を吹くことはないと頭では分かっていてもこめかみから伝わるヒンヤリとした銃口の感覚に気圧され、捨て値での売買を承諾しようとしたその時である……
「あややややや! 不良探偵の暴行現場を押さえましたよ!」
 刹那、目も眩まんばかりにフラッシュが立て続けに光を放つ。咄嗟のことで、その首謀者が誰なのかをとうに承知している運河でさえも俄かに怯み、その隙を逃すものかと、霖之助は這うように店の奥へと逃げおおせた。懸命にして賢明な行動である。世に犬猿の仲と称されるものは無数にあるが、今ここに対峙した二人もまたその例に漏れないだろう。フラッシュを撥ね除けるように運河は叫ぶ。
「ブンヤの烏め、何の用だ!」
 呼ばれた少女はようやく、構えたカメラをゆっくりと下ろした。体に不釣り合いなほど大きなカメラの向こうから覗かせたその表情にはまるで悪びれた様子もなく、
「あややややや。そんなこと私に言って良いんでしょうか? 運河探偵」
「良いもクソもあるか! お前のせいで交渉決裂じゃないか! くそぉ、何のために賞味期限切れを待ったんだか……」
「そんなにお金に窮しているなら、素直にネタを提供して下さいな。中身によっては額も弾みますよ」
「うるさい、売女め! 真に名探偵とは依頼人のプライバシィを順守するものよ!」
 先ほどから、ブンヤに烏に売女やらとヒドい呼ばれ様なこの少女、射命丸文という。文字通り烏の濡れ羽と言うに相応しい黒髪鮮やかな笑顔の似合う少女だが、それはひとえに新聞記者としての営業スマイルであり、またネタのためなら体も売るとは決して行き過ぎた誇大広告ではないというのは、もっぱらの噂である。
「義理堅い性格に足を取られてますねぇ……もっと開けっ広げにご自身の活躍を発表されれば仕事だって繁盛するのに……あ、その時にはどうぞ『文々。新聞』に御一報をば」
「え~い、毎度の事ながらしつこいやつめ! 開けっ広げにするのはお前の股ぐらだけだろうが」
「あややややや! 運河探偵のセクハラ発言キター!」
 またも始まるフラッシュの嵐に、ケチの運河もここは二発ほど実弾を消費せねばならんかなと、違う意味で冷静に銃を構えた……と、
「おっと、そうは問屋が卸しませんよ? これでも撃てますか~」
 自分の心臓に寸分の狂いなく向けられた銃口に目敏く気付いた文はカメラを放るや、後ろ手に何かを引っ掴み運河にそれを突き付けた。あざとく自分の心臓を守る様に突き出されたそれは……
「あっきゅん……!」
「しばらくぶりだね、名探偵」
 まるで悪さでもしでかした子猫のように襟首を文に引っ掴まれた少女……いや、幼女がブラブラと揺れながら呑気にも手を振っている。
「あっきゅん……何してるんだい?  まさかそのブンヤに拉致されたとか……!

「失礼な。この射命丸文、ネタの為には犯罪も厭いませんが、進んで手を染めることはありませんよ」
「黙れ、ブンヤ。稗田阿求と言えば幻想郷にも聞こえた銘家……大方、身代金狙いの衝動的な誘拐か? ふふん、だがこの火星運河に会ったが運の尽きさね」
「ちょっと待ちなさいって、運河ちゃん」
「安心したまえ、あっきゅん! 僕の射撃精度は百メートル先の茶柱をも打ち抜く!」
「……そのココロは?」
 半眼で尋ねる阿求に、外の世界でいうところのタカスタイルでデリンジャーを構えた運河は答える。
「滅多に撃てる機会がない、かな。だがまぁ、案ずる事ぁないよ。僕のバイブルは『蘇る金狼』だからね」 そう、運河は今時にしては珍しくカンフー映画を観た後は蛍光灯のヒモを相手にシャドウボクシングをしてしまうタイプなのだ。
「いやまぁ、貴女の類い稀なる妄想で培われた射撃センスは本当の事件で披露してちょーだい」
「本当の事件? あっきゅん、それって……」
 ようやく本来の意味での冷静さを取り戻した運河がデリンジャーを袖に引っ込める。
「そ、依頼があったの。久しぶりに名探偵・火星運河のお手並み拝見となりそうだよ」
 にっこりと微笑む阿求の後ろで、無数の烏たちが鳴き声を重ねた。
 それはまるで、これから起こる事件の緞帳を上げる開幕ベルのようであった。
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プロフィール

F田

Author:F田
出生:19XX年 3月23日
北海道・札幌の南方に寄生している学生。
友達やら漫画やらに感化されやすく、東方もその口だったりする(アイコンもまさにソレ)

もっぱら絵を描く事が生きがいなのだが、剣道部員だったのに腕が弱く、すぐに腱鞘炎になるのが悩みの種

メールアドレスですよ
tenkahubu800(´・ω・)yahoo.co.jp
(´・ω・)を@に変えてくださいな。

当たり前ですが、リンクフリーです。勝手にやっちゃってください。でも、連絡をくれたら助かります。

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